髪の毛が伸びるということ

 

髪を切った。ショートヘア。ここまで短くするのはたぶん中学生以来。短くしてもせいぜいボブくらいだった。本当はもっと、もっと伸ばしたかった。ヘアドネーションのために。

 

2年くらい前からすごく髪が抜けるようになっていた。毎日まいにち、いつか禿げるんじゃないかと思うほどごっそり抜けていた。いま思うとストレスだけじゃなく、甲状腺がちゃんと機能してなくて、成長ホルモンがちゃんと作用しないせいで抜けやすい弱い髪の毛しか作られてなかったのかもなあ…なんて。推測だけど。

 

髪の毛が抜けるって、とても悲しいことなんだ。それまでは髪の毛って伸びて当たり前、伸びたらうっとうしいもの、って思ってたんだけど。それが当たり前じゃないひとと、病院に居たらたくさんお会いするんだよね…その度に切なくなってた。

 

髪が伸びることが当たり前じゃないことに気づいたら、“髪が伸びる”という現象に感動するようになった。そして長くなった髪を下手くそなりにアレンジするのがまた楽しい。なんて贅沢なんだろう。

 

髪型ひとつで感じられる喜びって結構あると思う。その喜びを、放射線治療をがんばる子どもたちとも分かち合えたら…そんな思いで髪を伸ばして、より長い髪の毛を役立ててほしいと思っていた。

 

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手術後すぐは腕やら首やらにいろんな管をつけられてひとりでは何も出来ない状態だった。「髪洗って、さっぱりしませんか?」って声をかけてもらったときは嬉しかった。女性としての身だしなみを整えたい気持ちとか、清潔にすることで保たれる心のバランスとか。あの病棟のナースたちのケアにはあったかい優しさがあった。(もちろん例外もいたけど)

入院中は二回、洗髪をしてもらった。すっきりさっぱり。ただ、長い上に厚さのある髪を洗うのは大変そうだったしドライヤーするのも結構時間が掛かった。洗ってもらっているわたし自身も首への負担が半端なかった。

 

手術以降はささいなことでも首や肩への負担が大きくて、特に髪の毛を洗うのは重労働になってしまった。本来癒されるはずのお風呂が面倒でしょうがなくなった。

より長い髪を提供したいから切るのは避けたいんだけどなあ…と、プチ葛藤。

 

だけどわたしは5月に放射線を体内に取り込む治療(アイソトープ)を控えている。

 

仮にがんばって伸ばしたままにしたとしても、一度でも放射線を浴びた髪の毛を寄付するのか…って考えたら今のうちにバッサリ切るのが賢明かな、と。すぐに美容室を予約した。←この辺り、すごくおひつじ座らしいなって思う

 

長さが足りるか心配だったから、ヘアドネーションに協力してくれるか確認をして、相談してみた。『たぶん大丈夫だと思います〜』た、たぶん(笑)

 

ヘアドネーション用に髪の毛結わいてもらってたら

卑弥呼様ー!/

みたいになってひとりでおかしかった(笑)

 

こまかく束ね終わって『じゃあ、切っていきますね』ってハサミ入れられた瞬間は断髪式で引退するお相撲さんの気分だった。

 

男性の大きな手でわしゃわしゃあってシャンプーやドライヤーしてもらうのってだいすきなんだけどわたしだけかな。なんだかわんこの気分になる。(※ただしイケメンに限る、だな。担当してくれたのはしゅーぷりーむのパーカーとキャップがよく似合う雰囲気イケメンさん)

 

もっと伸ばしたかったなあ〜って思いはあったけど短くすることに全然後悔はなかった。なんか、気持ち的にさっぱりするんだろうなあ〜って思ってたから。

本当は今よりもっと肌が綺麗になったら、つるつるすべすべの肌を自慢するためにショートにしよう!って思ってたので、それだけは残念だったかなあ。まだまだ人様にお見せできるような肌ではないから…(これからなるけどね!←言霊)

 

友人に『髪伸びたね〜切らないの?』って聞かれたときにヘアドネーションの話をしたら、鼻で笑われたことがあった。なんでそんなことする必要があるの?って。健康で、髪の毛伸びることが当たり前のひとには分からないかもしれないね。看護師なのに、友だちなのに、分かってくれないんだなあ…ってショックだったけど、彼女と価値観のズレがあるのは元から分かっていたことだった。

 

偽善だって言われても、何もしないよりマシなんじゃないかなって。行動してるんだもん。ヘアドネーションに限らずサキナのこともそうだけど「そんなの要らないよ」っていうひとに『そんなこと言わないで受け取ってよ〜!』って押し付けはしたくないけど、いつかどこかの誰かの役に立つかもしれないなら、わたしは偽善でもお節介でも続けていきたい。

 

髪を伸ばすのも切るのも人のためって、なんかおかしいよね。不思議な理由。でも当たり前に伸びてくる髪の毛が誰かの役に立つかもしれないって思うと単純に、すごいなーって。

 

束ねてもらった髪の毛はこれから送る。無事にウィッグに変身して、誰かの笑顔につながるといいなあ。