がん。

 

何か新しいことを始めたい、とずっと思っていた。習い事とか、新しい趣味を見つけるとか、起業とか、起業とか、起業とか。とにかく変わりたかった。現状を変えたかった。わたしには慢性的にお金がない。30歳へのカウントダウンはもう始まっている。このままじゃいけない。焦っていた。

 

何をするにもお金が要る。

それを継続するとなったら尚更。

 

そんなとき『新しいことを始めたいと思っているひとにはブログがおすすめですよ』とおっしゃっている方がいらして。

 

なるほど確かにブログならお金をかけずに気軽に始められるかもしれない。でも何を書けばいいんだろう…と、ぼんやり思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2017年、春。

 

とある病院を受診した。首の右側がぼっこり腫れているのがいよいよ気になったからだ。本当はもっとずっと前から、おかしいことには気付いていた。誰に見られてるわけでもないんだろうけど、わたしも一応女のコ。首が腫れているのは見た目も悪いし、なんとなく嫌。でも病院に行く時間とお金が…ね。

 

ハタチのときにも首が腫れているのを指摘されて、受診したことがあった。甲状腺が腫れているので首に針を刺して細胞の検査をしましょう、と言われた。

 

(首に…針…?必殺仕事人かよ……?)

 

『針を刺す間はツバを飲み込まないでね、喉が動くと神経おかしくしちゃうかもしれないから』

 

めちゃくちゃ怖い脅しをされて、イケメンドクターに言われるがままされるがまま、エコーと長くて太めの(もうそれ針って言わなくね?っていう)針を駆使して、チョキチョキチョキンと、首の中にある甲状腺の細胞を切り取られた。

 

研修医だったんだろうか、なんの説明も無しにぞろぞろ検査室にやってきた白衣の男性たちに囲まれ見守られながらの検査は、ハタチの女の子にはなかなかの苦痛だったなあ。

 

結果は異常なし。良性なので様子を見ましょうと、しばらく定期検診を受けて終了。

 

 

 

それから7年。以前と違ったのは鈍い痛みがあったこと。そして圧迫感と、なんとなく息苦しさもあった。

 

エコーと穿刺検査を受けた結果

 

『左右の甲状腺全体に白い影があるけど、悪性とも良性とも判断がつきませんでした。甲状腺腫瘍は手術してみないと悪性か良性かは分からない。万が一悪性だったとしても甲状腺がんは怖いものではないから気長に観察していきましょう』

 

 

中途半端!なんて中途半端な診断なの!

 

 

でもそう言うなら、そうなのかなあ…。

 

ただ、やっぱり気になって “甲状腺”  “症状” などなど、いろんなことを調べた。インターネットって、スマホって便利だね。

 

何ヶ月か通院した。行くたびに相変わらずなくならない鈍痛と息苦しさを訴えるけど、主治医は『気のせい』とか『思い込みじゃないの』『考えすぎ』だと言った。

 

正直、納得いかなかった。症状と関係のないような薬をたくさん出されたりもした。当たり前だけど全然回復はしなかった。主治医が信じられなくなって、ついに定期検診の予約をすっぽかしてやった。

 

 

さすがに心配しはじめた母が『札幌に有名な甲状腺の専門医がいるらしいからそこで診てもらわない?』と言ったのは9月も終わる頃。心配性の母をそれで安心させられるのなら…。

 

 

10月2日。始発の電車で札幌に向かった。少し早めの雪が降ったあとで、一際寒く感じる日だった。

 

そこは個人クリニックで、ビルのワンフロアが病院となっていた。甲状腺を専門で診ている先生はやはり少ないのだろう、クリニックってこんなに混むの!!???というほど患者さんがフロアいっぱいに溢れていた。

 

クリニックのスタッフは少数精鋭、といった雰囲気。院長は穏やかなおじいちゃん先生。あれだけたくさんの患者さんをひとりで毎日診ているのだから、すごい。

 

 

採血検査とエコーを受けた。

 

『右側の腫瘍には石灰化がある、これは悪いものですね。それだけじゃなくて左側にも小さいけど5〜6個は腫瘍がありそうだ。提携している大きな病院を紹介するからなるべく早く診てもらって。良いものにしろ悪いものにしろ、上手な先生だからよくしてくれるよ』 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おうおう!経過観察で十分だって言ってたのはどこのどいつだい?

 

ちーがーうーだーろー!

このハゲーーー!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お金と時間を返してほしかった。仕事の休みと受診日の調整が付かなくて遅刻することもあったから。その度にサボりだのなんだの、陰口を言われていた。

 

そのこともあるし、突然自分ががんかもしれないと言われたときの、なんとも言い表しがたい感情。どんな気持ちで居ればいいのか分からなくて、でもただ母を不安にさせないよう、平常心を装った。

 

おじいちゃんDr.がご指名の先生の受診はなかなか予約が取れないと言われてたのだけど、意外とあっさり予約が取れた。予約が取れた日は祖母の命日。おばあちゃんパワーかな?と母と笑った。急展開に戸惑った。モヤモヤしながら通院してた時間はなんだったのだろう。

 

 

 

10月26日。予約をしていた病院へ。

採血、エコー、穿刺検査を受けた。3回目ともなると慣れた検査だけど、多分人生でこんなにのどに針刺されるひとなんてきっとそうそう居ない。首に針を刺すのは経師屋の涼次さんくらいだと思っていた。(経師屋の場合、正確には針で刺すのは心臓。← 続く仕事人ネタ)

 

おじいちゃんDr.が “上手な先生” と言っていただけあって、穿刺検査はすんなり終わった。全然痛くもなかった。痛くて緊張する検査だとずっと思っていたし、前の病院での検査では低血圧を起こして倒れてしばらく動けなかったのに、あっさり終わったもんだから拍子抜け。

 

 

 

1週間後、検査の結果が出た。

 

『腫瘍は悪いものでした。左右の甲状腺全体と、リンパにも転移が見られます。ただ、取ってみないと悪性か良性かの断定はできない。手術をした方がいいです。それもなるべく早い方がいい。年内にスッキリさせておこうか。12月なんてどう?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いやいやいやいやちょい待てちょい待てだってきょう2回目の受診だよ?そんな『クリスマスの日、空いてる?』みたいなノリで手術の日程決めちゃうの?そもそも手術は決定事項?まだわたしはい分かりました手術受けますって言ってないけど?え?ええええええええええええええええええ?????

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パニックになる暇も与えられず、入院の日も手術の日もどんどん決まって、言われるがまま手術に必要な検査をあっちでこっちで受けた。

 

 

『疲れたね〜。おひる食べて帰ろっか』と、母と遅めのランチをした。

 

安心させてあげるために受診したはずだったのに逆に不安を煽る結果になってしまった。つくづく親不孝な娘…。

 

 

 

申し訳なさでいっぱいになりながら食べたごはんの味が、思い出せない。